店舗の賃貸借契約時の留意点

賃貸借契約書のサンプル画像
店舗開業に際して、店舗物件を探して賃借する場合は、貸主との間で賃貸借契約を結ぶことになります。開業準備はやる事がたくさんあって大変ですが、この賃貸借契約も重要な事柄の一つです。

内見・申込みから審査まで

店舗を借りる前には当然どの物件にするかを選びます。まずは契約に至る前に、物件を選んでから決めるまでの留意点を確認しましょう。

 

【内見について】

アットホームなどの不動産情報サイトで候補物件を見つけたら、物件情報を提供している不動産会社に「内見」をしたい旨を伝え予約します。内見は基本的には1物件につき一回なので、その機会に見たいところは全て見て、確認しておきましょう。契約時や契約後に見落としが発覚して、それが営業形態を左右するような重大なことだとしたら、契約を白紙にしなければならなくなるかもしれません。そうなると時間を浪費するばかりか、それまで準備した金銭面での実損も出てきますので、細部にわたるチェックリストなどを事前に用意して内見にのぞむことをおすすめします。

 

物件の状態がスケルトンか居抜きか、または空き店舗かまだ前テナントが入っている状態かによって見られる箇所が制限されたり、見るべき箇所が違ってきたりもしますが、不明な部分については同行してくれる不動産仲介会社または管理会社に確認しましょう。

 

【申込み~審査について】

内見を経て気に入った物件が見つかったら、次に「申込み」をします。申込み時点ではまだ自分が借りられると決まったわけではありませんが、一旦他に借りたい人が出てきても最優先順位は確保できます。言い換えれば、複数の候補物件で迷って申込みを保留にしていると、他者に賃借の優先権を取られてしまう可能性が高くなります。

 

そうならないためには、候補物件について不明点を残さずに確認し、迅速に比較検討して一つの物件に早めに決めることが必要です。

 

申込みに際しては、物件によっては「申込金」の支払いを求められることがあります。その場合は、もちろん指定の金額を指定の期日までに入金する必要がありますが、賃貸借契約が成立したときにはその申込金が何に充当されるのか、契約に至らなかったときには全額返還されるのかを確認した上で、「預かり証」を発行してもらいましょう。お金のことで後の無用なトラブルを避けるためには、必要なことです。

 

また、申込み時には、必ず「事業計画書」を提出することになります。事業用賃貸物件では、貸主にとってその物件で営まれる事業が順調にいくかどうかが最大の関心事です。事業計画がしっかりしていれば月々の家賃の支払いが滞る可能性が低く、長く貸せると判断してもらえます。もちろん借主の人となりも重要ですし、業種や店舗の雰囲気にこだわる貸主もいますが、最も重要なのは事業計画が細部まできちんと練られていて継続性・将来性が期待できるかということです。

 

この貸主による事業計画書の確認は、イコール「入居者審査」となります。この審査に通らなければいくら物件を気に入っていても借りることはできません。ですから改めて事業計画書の重要性を認識しておきましょう。

契約内容の確認

契約書の確認を表したイメージイラスト

無事審査に通れば、いよいよ貸主と借主の間で店舗の「賃貸借契約」を取り交わすことになります。内見、申込みの段階で、契約条件などについては不動産仲介会社といろいろと話をしているはずです。しかし、最終的に重要なのは契約内容ですから、途中で交わした会話の内容を含めて、条件にかかわることは賃貸借契約書に間違いなく記載されているかを必ず確認しましょう。

 

契約を結ぶ前の「重要事項説明」の段階でも、重要事項説明書の内容に認識違いや想定していた内容の記載漏れがないかを確認します。もしも不明点や疑問な部分がある場合は、必ず確認しましょう。主要な確認項目について挙げておきます。

 

【契約形態・期間について】

まず、「普通賃貸借契約」か「定期賃貸借契約」かで、契約期間満了後に契約更新できるか退去しなければならないかが違ってきます。この点は必ず理解して確認しましょう。契約期間についても2年なのか3年なのかで、更新手続きの頻度が違います。契約更新時に「更新料」の支払いが定められている場合は、更新ごとに借主にはその分の費用負担があるので、設定金額を含めて確認します。

 

【保証金・敷金について】

「保証金」・「敷金」は、契約時に支払う初期費用です。支払い時の金額がいくらなのかは当然確認するとして、退去時に返還される金額についても取り決めをする必要があります。先のことですが、退去時点で不満に思っても契約内容は変えられませんから、必ず確認しましょう。

 

【契約解除について】

ここでは貸主側からの「契約解除」について記します。この場合の契約解除は、借主が貸主に著しく不利益を与えるような事柄や信頼を損ねるような事象を発生させた場合に、貸主は即刻賃貸借契約を終了できるという取り決めです。家賃滞納がその事由として記載されることが多いですが、その場合は家賃滞納期間の設定を確認しましょう。もしも期間設定が1カ月ならば、延長が可能か交渉してみてもいいでしょう。不可避の外的要因で一時的に売上げが低迷することはないことではありません。その際に1カ月の家賃滞納で即契約解除(退去)の措置が取られるのでは、事業者としてはリスクが高いですし、1カ月の家賃滞納が「著しく不利益を与える・信頼を損ねる」とまで言えるかという問題もあります。

 

【中途解約について】

借主側の都合で契約期間の満了を待たずして解約しなければならないこともあります。そのときの解約予告期間や違約金の有無などを確認しましょう。

 

【退去時の物件状態について】

退去時に、借りていた物件をどのような状態にして返すかという問題です。「原状回復」を具体的にどのような形とするのか、スケルトンで借りたのか居抜きで借りたのかでも大きく違いますが、細かな点まで確認しておきましょう。原状回復の工事内容によって、解約通知時期と解約時期の調整が必要になります。

 

【特約について】

上記の各契約内容については、「特約」として定められることが多々あります。法令上特約の設定が可能なものについては、その記載内容は有効になります。もしも借主にとって不利だと思うような内容の特約が記載されている場合や、よく内容がわからないものは必ず確認して不明部分を残さないようにしましょう。

 

上記のような契約内容を確認した上で、納得がいく結論に至らなかったならば、契約を取りやめるという判断もあります。曖昧なまま契約を進めるのは大きな後悔につながるのでやめましょう。

 

ただし、契約直前の段階では、貸主も不動産仲介会社も相応の労力を使っていますし、その間は他の賃借人募集をストップしているのですから、気軽に契約を取りやめることはするべきではありません。そうならないためには、最初から自分の意思や希望条件などを詳細かつ明確に貸主側に伝える努力をして、認識にずれがないようにする必要があります。

融資を受ける場合

店舗の開業資金を金融機関からの融資で賄おうとする場合、店舗物件の契約と融資が確定するタイミングができるだけ合っていることが理想です。

 

物件の賃貸借契約が先行しすぎていると、もしも審査に落ちて融資が受けられなかった場合、開業ができなくなる可能性があります。さらに余計な費用負担だけを背負うことにもなります。

 

反対に、店舗が借りられるという前提で融資の申込みを進めていて物件の審査に落ちたならば、融資の話は白紙になるかもしれません。

 

これを合わせるのはとても難しいことですが、それぞれの申込み時にどこまで確定していれば受け付けてくれるのか、見込みで動いてくれるのかを仲介不動産会社、金融機関双方に確認しておきましょう。

 

いずれにしても重要なのは事業計画書の内容です。事業の実現性はもちろんのこと、収支予測や資金計画を含め、継続性・将来性まで細かく丁寧に練られていることが必要です。

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