店舗経営に伴うリスクと備えについて

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どのようなビジネスにおいてもリターンがあれば、リスクも存在します。中には、事業に大きなダメージを与えるリスクもあります。開業後の不測の事態に備えるために、店舗経営・事業運営する上でのリスクとその回避策を知っておきましょう。

起こり得るリスクと保険

店舗を経営するとなれば、大小の違いはあれ、必ずトラブルは発生するものです。それは毎日の営業の中で十分気をつけていても、すべて避け切れるわけではありません。そのような「付き物」である店舗経営のリスクには、どのようなものがあるのでしょうか。リスクが生じたときの、経済的損失を補填する備えとして有効な保険とともに解説します。

 

【財物損害リスク】

店舗には什器や設備、商品などさまざまな財産的価値を持った物が存在します。それらの物品が、災害や事故によって破損したり、盗難によって失われたりすることを「財物損害リスク」といいます。こういった財物損害に対しては、企業財産に関する保険である補償保険に加入することによって、リスクに備えることが可能です。

 

【売上金の盗難リスク】

レジスターや金庫などに、店舗の売上金は一定期間必ず保管されます。あるいは集金や金融機関への入金・出金の際に売上金を持ち歩くこともあるでしょう。これらいずれの場合も、現金は盗難・紛失のリスクにさらされていると言えます。売上金などの現金(業務用通貨)もしくはそれに類する証券は、火災保険やその他損害保険の補償対象から外れる場合が多くあります。損害保険に加入する際は、現金の補償が含まれているかを確認しましょう。補償内容によっては、現金用の保険加入や特約の付加を検討する必要が出てきます。

 

【食中毒に備える保険】

飲食店を経営していく上で、食中毒は事業に大きなダメージを与える厄介な問題です。まず、食中毒になってしまったお客様への損害賠償が発生します。幸い賠償責任を問われなかったとしても、治療費用などは必要でしょう。営業停止処分を受けると、売上がなくなります。営業再開までに消毒や洗浄措置が必須です。また、食中毒を起こした事実は行政が公開するため、広く世間の知るところになり、営業再開できたとしても、元の客足を取り戻すには相当の困難が予想されます。

 

さらに販売物品だった場合は、商品の回収作業も発生します。これら食中毒を起こしたときにかかる多額な費用、得られるはずだった売上のダウンに対するリスクに備えるには、保険への加入が必要です。保険会社により補償範囲や適用条件は異なる部分があるため、自分の店舗に合ったものを選びましょう。

 

【休業のリスク】

災害や事故で、長期間営業ができなくなったらどうなるでしょうか? その間売上はありませんが、店舗の家賃など固定費は発生し続けるため、資金不足から事業の継続が困難になるリスクが生じます。こういった休業リスクに関しても、事業用の損害保険に加入することで、一定の安心は得られます。

 

【従業員の労災リスク】

従業員が、業務上や通勤時にけがなどをした場合の労災リスクがあります。労災リスクは国の労災保険制度で補償されます。原則的に一人でも労働者を使用する事業は、業種や事業規模にかかわらず、すべてに適用されます。この場合の労働者とは、正規雇用に限らず、アルバイトやパートタイマー、臨時雇用、試用期間など、すべての雇用形態の従事者を指します。なお、事業主には、労災保険への加入が義務付けられているため、加入漏れがないように注意しましょう。

 

【顧客などに損害を与えるリスク】

業務中に人や物に損害を与えてしまった場合は、民間保険会社の法人用の「賠償責任の保険」に加入しておくことでリスクを軽減することができます。

 

「賠償責任の保険」は、業種に応じて保険の内容が異なります。例えば、飲食店の場合、熱い飲み物をこぼしてしまい、お客様にやけどをさせてしまうというケースも考えられますし、ガラスやプラスチックを使ったオブジェなどで、思わぬけがをしてしまうということもあるかもしれません。事業活動に伴って賠償事故が発生した場合に備えて、被害者への賠償金や訴訟費用などを補償する保険があります。

 

【社用車事故のリスク】

商品の配達などで車両を使うこともあるでしょう。自動車の運転には常に事故リスクが伴いますから、社用車の事故に備えておく必要があります。従業員の運行による事故についても、それが業務上の運行であるなら、事業者(会社)には「運行供用者責任」というものが生じます。つまり、事故の被害者に対して損害を賠償しなければならないのです。このリスクをカバーするものとして、法人向けの自動車保険があります。法人向けの自動車保険には、「フリート契約」と「ノンフリート契約が存在します。契約自動車数が10台以上の場合はフリート契約を、10台未満の場合はノンフリート契約になります。契約内容、保険料の割引などが異なりますから、各社の保険を確認しましょう。

社会保険制度について

社会保険制度による安心感を表したイメージ画像

日本には国民の生活を国が保障する「社会保険」という制度があります。病気やけが、要介護の状態になったとき、高齢化で思うように働けなくなったときなどのために、国が財源として費用を蓄えておいて必要な人に規定金額を支給していきます。

 

社会保険には「健康(医療)保険」「介護保険」「年金保険」「雇用保険」「労災保険」の5種類があります(広義の社会保険)。社会保険の財源は、国民一人ひとりと事業者が保険料を納めることで賄っています。一般企業の社員や公務員は、社会保険の加入手続きから保険料の納付まで、勤務先事業所が行ってくれるので、社会保険についてさほど意識していないかもしれません。

 

しかし、個人事業主になると、加入する保険の種類が違いますし、加入できないものもあります。負担する保険料も違います。何がどう違うのかを理解していないと、万が一のときに思っていたよりも支援が得られずに困窮するようなことになるかもしれません。反対に理解することで、不足分を民間の保険利用でカバーするという発想などが生まれるかもしれません。以下の各保険の内容を知っておきましょう。

 

【健康保険】

「健康保険」は国民全員が加入し、保険料納付の義務があります。会社員ならば、勤務先の事業規模によりますが、「健康保険組合」か「健康保険協会」に属すことで健康保険を自動的に利用できるようになっています。個人事業主の場合は、「国民健康保険」に加入することになります。運営は都道府県が行っているので、住所地の都道府県に加入手続きをします。保険料率は自治体ごとに違うので、確認が必要です。

 

なお、保険料の負担という点で、会社員と個人事業主では大きな違いがあります。前者は保険料の半分を個人(本人)、もう半分を事業所が納めています。つまり会社員ならば、本来納付すべき保険料の半分を負担すればいいのです。しかし、個人事業主では、既定の保険料の全額を自分で負担しなければなりません。また、国民健康保険では、「出産手当金」「傷病手当金」の支給がありません。家族が増えたときにはその分保険料が増額します。

 

【介護保険】

「介護保険」は40歳以上の人全員に加入義務があります。個人事業主の場合は、国民健康保険の保険料に上乗せして納付します。

 

【年金保険】

「年金保険」は2種類に分かれていて、一つが「国民年金」。これは「基礎年金」とも呼ばれ、20歳以上60歳未満の全ての人に加入義務があります。もう一つが「厚生年金」。これは会社員・公務員が加入する保険で、個人事業主は厚生年金には加入できません。つまり、会社員・公務員は、国民年金と厚生年金両方の保険料を納付していくことになりますが、その分年金の受取金額も多くなります。

 

一方、個人事業主は国民年金のみなので保険料の負担は少なくて済みますが、支給金額も少なく、将来の備えとしては不十分と言えます。その分は事業実績を上げることで蓄えを増やすか、独自に民間の年金保険に加入するなどの対応策を考える必要があるでしょう。

 

【雇用保険/労災保険】

「雇用保険」「労災保険」という二つの保険制度は、「労働者」のリスクをカバーすることを目的としており、個人事業主は労働者には該当しないということで加入できません。もしも経営難に陥り、廃業することになったとしても社会制度としての保障はありません。

 

以上はあくまでも個人事業主の立場での規定内容ですので、従業員を一人でも雇用するとなると話が変わり、事業者として従業員に対して社会保険に加入する義務が発生します。その点を間違えないようにしましょう。

 

【遺族年金】

世帯主である夫が亡くなったときに、遺族に「遺族年金」が支給されます。この遺族年金についても、会社員・公務員と個人事業主では違いがあります。受給対象者が「18歳未満の子のある配偶者」である場合、国民年金の加入者には「遺族基礎年金」が支給されます。国民年金の加入義務がある個人事業主の配偶者ももちろん支給対象になります。ところが夫が会社員・公務員ならば、この他に「遺族厚生年金」も受給できますが、個人事業主の場合はこの分の給付はありません。

 

また個人事業主の「子供がいない配偶者」には、「寡婦年金」または「死亡一時金」が支給されます。「寡婦年金」は、夫が個人事業主となって国民年金保険料の納付期間が25年以上ある場合に、夫が受け取ることができた基礎年金支給額の4分の3を受給できます(他にいくつか受給要件があります)。

 

「死亡一時金」は、夫が個人事業主となって国民年金保険料の納付期間が3年以上ある場合に、

受け取ることができます。ただし、保険料納付期間が「3年以上15年未満」の場合で、支給金額は「12万円」という規定ですから、文字通り一時金程度と言えます。

「寡婦年金」「死亡一時金」のどちらも受給要件を満たしている場合は、一方を選ぶことになります。

 

やはり、万が一のときの遺族に対する備えとしては、不足と言わざるを得ません。民間保険への加入か、何か資産を残す手だてを検討することが必要になりそうです。

個人事業主としての将来リスクに備える

前述のように、万が一個人事業主が亡くなったときの、遺族への社会保険による補償はとても十分とは言えません。また、病気やけがでの休業でも有給休暇などはありません。高齢に伴い廃業するときにも、退職金はありません。これら、将来への不安・リスクに備えておく必要があるでしょう。

 

【民間の生命保険への加入】

民間の保険にはさまざまな種類が用意されていますが、万が一のことを考えて、生命保険に加入しておけば、残された家族のことを考えても安心できるでしょう。

 

生命保険には、定期保険、収入保障保険、終身保険などがあります。

「定期保険」は、保障期間が決められている掛け捨て型の保険で、保険期間中に被保険者が死亡または高度障害状態になった場合に、保険金が支払われます。解約返戻金や満期時の保険金は支払われませんが、その分月々の保険料は割安です。

 

「収入保障保険」は、保障期間が決められている掛け捨て型ですが、一度に全額が支払われるのではなく、一定期間に分割して死亡保険金が支払われるという特徴があります。一時金で受け取ることもできますが、運用益の分が差し引かれるので、分割の場合よりも受取金額は少なくなります。死亡した年齢が満期に近いほど、支払われる保険金は少なくなりますが、養育費などを考えれば合理的と言えるかもしれません。

 

「終身保険」は、被保険者が死亡するまで保障が続く保険です。「死亡するまで」ですから満期はありませんが、「定期付き」と組み合わせることもできます。途中で解約すると解約返戻金が受け取れます。保険料が割高なため、事業主として利用するには、難しい生命保険かもしれません。

 

【小規模企業共済制度の利用】

「小規模企業共済制度」は、国の機関である独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営しており、小規模企業の経営者、役員、個人事業主などのための、積立金による退職金制度です。月々の掛金は1,000円~70,000円と幅広く、全額を課税所得から控除できるため節税にもつながります。

 

共済金(退職金)の受け取りは、分割、一括、併用が選択できます。また、掛金の納付期間に応じた限度額を借り入れられる貸付制度もあるので、傷病災害時や、緊急経営安定のためなど、一時的に資金が必要になったときの備えとして利用できるメリットもあります。

 

【法人化を検討】

個人事業主が法人化した場合、万が一の場合でも事業を継続できるというメリットがあります。財産も相続の対象にはなりませんが、一方、個人事業主が死亡した場合、事業により得た財産はもちろん、設備機器、社用車などすべての資産が相続財産として取り扱われ、課税対象となります。

ただし、法人化すれば、所得税から法人税にかわるため、一定の収益がなければ負担が増えることになります。まずは収入を向上させ、業績を上げる必要があるでしょう。

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