賃貸経営で発生するトラブル・苦情への対応
住戸(専用部分)に関するトラブル
【設備の不具合】
住戸内の備え付けの設備機器については、不具合時の修理や交換は基本的にオーナー負担で行います。エアコンや給湯器、ガスコンロ(クッキングヒーター)といった機器は生活していく上で欠かせないものになっていますので、早急に対応しなければなりません。普段から電化製品はA店、給湯器はB店と決まった修理・交換会社を決めておくと、スムーズに入居者からの要望に対応することができます。設備としては、例えば備え付けのベッドとか、各種扉など建具の動作の不具合などがあります。
【水回りのトラブル】
住戸の中の「水回り」とは、主にキッチン、浴室、トイレ、洗面、洗濯機になります。水は人が生活する上で最も重要なライフラインの一つですから、入居者からの連絡があった場合、緊急度が高いと考えるべきでしょう。
まずは、できるだけ正確に状況を確認することが大切です。それがわからないと修理・施工会社につなぐこともできませんから、結果的に対応の遅れにつながってしまいます。間に管理会社が入って、連絡の受け付け、対応も行なってくれるとしても、実際に修理などをするためにはオーナーの承諾が必要になりますから、常に連絡がつながる体制を取っておきましょう。
【緊急を要するトラブル】
まずは「水」に関するトラブルです。「水漏れ」がそうですが、これには大きく二つあります。一つ目が入居者の過失により、風呂などの水を出しっ放しにしてしまい水漏れを起こした場合です。もしも、集合住宅の上階の人が水を溢れさせたとしたら、水浸しになった上階住戸への対応と、天井から水漏れの被害を受けた下階住戸への両方への対応が必要になります。また、原因は違えど、居室の水道管が経年劣化によって破損したことによる水漏れも、当然同じ対応になります。水道管が破損しているなら、その修理ももちろん必要です。
もう一つの水に関するトラブルは、「雨漏り」です。雨漏りの発生連絡があったら、まずは何らかの応急処置が必要になるでしょう。その後、原因の調査と必要な修繕を行うことになります。居室が浸水した場合、まずは水の除去を行い、その後損害の範囲、状況を確認します。場合によっては、床(天井)板の張替え、床下(天井裏)の清掃が必要になります。
加えて各住戸内で濡れて使えなくなった電化製品などがあれば、交換しなければなりません。備え付けの設備なのか、居住者の持ち物なのかによって、また原因が何なのかによって誰が費用負担するのかが違ってきますが、オーナーとしては、こういったケースに対応するための備えとして、「施設賠償責任保険」があります。あらかじめ「施設賠償責任保険」に加入しておけば、万が一のときの支出にも安心して対応できます。
ガス漏れや強風による窓などの破損も、緊急に対応しなければなりません。入居者が平穏に居住できない状況は、とにかくできる限り早く対応しなければなりません。こういうときの対応が遅かったり、連絡がつかなかったり、受け答えが親身でなかったりすると、入居者からの信頼を失い退去につながりかねないので、日常から準備をしておくことをおすすめします。
共用部分や近隣に関するトラブル
【ゴミ出しについて】
入居者間、近隣住民間で問題が起こりやすい事柄に「ゴミ出し」があります。問題が発生する主な原因は、捨てる人がルールを守らないことによりますが、大抵は以下の二つに集約されます。
・ゴミの分別ルールを守らない
・ゴミ出しの曜日・時間を守らない
このようにゴミ出しルールを守らない人がいると、収集されなかったゴミが放置されることになります。集合住宅の場合は、それを不快に思う他の入居者からのクレームがオーナーもしくは管理会社に入るので、その対応を行わねばなりません。具体的な対応策としては、
1.掲示板を利用した事例の報告と注意喚起、ルール再周知のお願い
2.上記内容を通知文書にして各住戸へ配布
3.違反者が特定できた場合は個別に連絡、ルールを守るように依頼
4.ゴミ収集日の一定時間に管理人などがゴミ置き場に立ち会うといった措置
5.防犯カメラによる監視(設置)
などが挙げられます。これらを状況に応じて実施しますが、「4」「5」は費用がかかりますので、まずは「改善が見られない場合にはそのようなことも行います」ということを、事前警告的に通知文に含めるやり方がいいかもしれません。
ゴミ問題は放置したり対応を先延ばしにしたりすると、同じことをする人が増えたり、外部からの投げ捨てを誘発したりして、さらに問題を大きくする可能性があります。また、ルールを守っている入居者が退去を考えるきっかけになるかもしれません。さらにゴミを長時間放置すると、猫やカラスによる生ゴミの散乱が起き、近隣住民からの苦情に発展してしまいます。最終的に所有物件の評判や価値を下げることにもつながってしまうので、オーナーとしては、常にゴミ置き場が清潔な状態を保てるよう努めましょう。
【駐車場・迷惑駐車に関するトラブル】
「誰かが自分の駐車スペースに車を止めている」「本来駐車スペースではない箇所に車があるため車を出すことができない」など、駐車場での迷惑駐車に関するクレームもよくあります。
ここで注意が必要なのは、迷惑車両だからといって勝手にレッカー移動などをしてはいけないということです。民法には「自力救済禁止の原則」があり、法の手続きを行わずに実力で権利を回復してはいけないと定められているのです。レッカー移動のほか、タイヤをロックするなどの行為も禁止されており、この原則を無視して実力行使をした場合には、反対に違法行為として処罰の対象になる可能性があります。
迷惑駐車を発見した場合には、「いつ」「どこで」「誰が」「どうする」をハッキリ書いた張り紙をしましょう。「○時〇分~○時○分(いつ)、迷惑駐車している車のナンバー(誰が)、〇〇の私有地(どこで)において」など詳細を明記します。さらに「〇時間以内に車を移動させない場合は、警察に連絡する(どうする)」といった内容を書きます。
張り紙をする際に接着剤などを使うと器物損壊になり、罪に問われることになるので注意が必要です。車両を傷付けないようワイパーなどに紙を挟み、念のため写真を撮っておくと安心です。また、ナンバーなどを陸運支局で調べれば所有者を特定することもできますが、事件性がない場合には警察による対処は望めません。前段で張り紙に「警察に連絡する」旨を記載する、とありますが、実は私有地内での迷惑駐車に対しては、道路交通法上の駐車違反は適用されません。従って迷惑駐車そのものを処罰する規定はないので、何か別の法令違反を適用させるしかありません。とはいえ、事件性がなければ基本的に警察の介入はないので、とりあえず張り紙をして相手の出方を見ることになります。
それを踏まえると、迷惑駐車に対しては、まずは「契約車以外駐車禁止」「罰金をいただきます」などの、そもそも駐車させないための予防看板を設置することが必要かもしれません。また、住人が「うっかり駐車してしまった」など、悪意がない可能性も考えられるので、初動対応には注意が必要です。
加えて、駐車場内で駐車している間に傷を付けられた、子供が遊び場にしていて車を傷付けた、といった場合には、物件オーナーが管理責任を問われることがあります。「進入禁止」や「遊び場禁止」の看板を設置するなどして、管理義務を果たしましょう。防犯カメラの導入を検討してもいいかもしれません。
【騒音問題】
「上の階の足音がうるさい」「隣のオーディオや楽器の音がうるさい」「洗濯機を夜中に回す人がいる」など、騒音に関する苦情も多いものです。
この「音」については、なかなか難しい面があるので対応に注意が必要です。というのは、まず同じ音でも人によってうるさいと感じるか、感じないかというレベルが異なるという点です。ですから、音についての苦情が寄せられた場合、最初の対応としては、まず「騒音」の原因を実際に確認しましょう。もしもそれが「騒音」ではなく社会通念上許容範囲の音であれば、その旨を苦情元に説明して話し合ってみましょう。
反対に「騒音」であると判断される場合は、原因となっている住人に迷惑を感じている人がいることを伝え、改善を促すように話し合ってみましょう。このとき、音を出している人を一方的に悪者のように扱うのではなく、音が出る理由や事情を聞いた上で解決策を探るように心掛けるといいでしょう。解決策としては時間制限をつけることで収まる場合が多いようです。
また、集合住宅では、思わぬ音の反響効果から響いてくる方向と本来の音源が全然違うということがあるので、確かめる前に特定の住戸を疑うことには慎重になるべきです。
【異臭問題】
異臭がする場合は、事件や事故の可能性もあるので早急な対応が必要になります。原因はゴミの放置、ペットやタバコのにおいのほか、生活習慣の違いによる芳香剤やお香のにおいなどもあります。デリケートな部分も含むので注意が必要です。
【ペットに関する問題】
「ペットがベランダを徘徊している」「ペットがうちの洗濯物におしっこをかけた」など、ペットに関するトラブルもよく発生します。元々ペット禁止をうたっている物件ならば、違反者にペット飼育の中止を申し入れます。中止を聞き入れなければ契約解除の旨を通告することになるでしょう。ただし、例え契約上ペット禁止になっていたとしても、必ずしも貸主側からの契約解除が認められるとは限りません。裁判になった場合は、ペット種類や飼い方など個々の事案ごとの判断になるので注意が必要です。
ペットに関する責任は飼い主にありますから、基本的には飼い主と話し合うことでペットトラブルを解決していくことになります。
契約に関するクレームと対処方法
【入居者からの賃料減額交渉】
長年入居している入居者から、「隣の人と家賃が違う」などと言われて、家賃を下げるように交渉されることがあります。こういったケースの場合は、後々発生するであろう「空室リスク」も合わせて考慮していかなければいけません。
10年も住んでいてトラブルもない優良な入居者ならば、多少家賃を値引きしても住み続けてもらう方が、空室リスクを考えるとよい場合もあります。ただし理にかなわない値引き交渉には「NO」を突き付けましょう。きちんとした理由もなく、「まあいいか」程度で減額してしまったら、更新の度に値引きを要求されるかもしれないし、そのときに明確に拒否する姿勢を取りにくくなってしまいます。
更新料の減額交渉についても同様です。特にアパート一棟経営の場合は、一世帯の交渉に応じてしまうと、そのことを他の入居者が知ったときに、当然自分もと言い出すこととなります。契約によって発生する費用の徴収については、その正当性をきちんと説明し、支払いを求めることを基本姿勢とすることをおすすめします。
【退去時のトラブル】
一般的に、賃貸借契約では、入居時に借主から敷金を徴収します。そして、退去時に行う原状回復工事において、借主が負担すべき工事費用分を敷金から充当し、残額を返還することになります。この敷金返還時に発生するトラブル事例は、珍しくありません。
どのような点でトラブルになるかというと、原状回復の負担割合で、貸主側の提示と借主側の想定が合わない場合です。それが敷金の返還金額という形で現れるので、主に借主側が思っていたより多くの金額が差し引かれていると、トラブルに発展してしまうのです。
民法の規定では、借主が原状回復負担義務を負うのは、借主の「責めに帰する」損傷についてだと明示されています(第621条)。さらに、通常の住居使用で生じた損傷や経年による劣化については、借主に負担義務はないということも明示されています。
借主の「責めに帰する」具体的な例としては、「タバコによる畳の焼け焦げ」「家具の移動時に付いたフローリングの傷」「結露を放置した結果拡大した壁のカビ・シミ」などが挙げられます。反対に借主の負担義務とならない例は、「年月経過による畳や壁の変色」「冷蔵庫が接していた部分の壁の黒ずみ」「通常生活に伴う壁の画びょうの痕」などです。
これらの汚れや傷が、実際の退去現場でどのように判断されるかがポイントになるわけです。こうした退去時のトラブルを避けるためには、契約時に原状回復の負担について明確に取り決めて、契約書に記載しておくことが重要になります。その上で、重要事項説明で確実に説明し、借主の合意を得ておくことも必須です。
ただし、この民法の規定は任意規定なので、特約として個別の規定を設定することが可能です。もしも特約で、具体的に借主が負担義務を負う内容を設定するなら、より確実に借主の合意を取っておくことが必要です。でも、任意規定だからといって、法外に借主の負担が重くなるような特約は、万が一紛争になったときに認められない可能性が高いので、適正な契約内容になるように心がけましょう。
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